Share
デベロッパー

アプリのクラッシュを放置するとLTVは低下する?

by Nori Hayashi on Feb 7, 2018

動画再生でのフリーズやエラー、クラッシュなど、アプリの安定稼働に関わる問題はアプリのユーザー体験に大きな悪影響を与え、ユーザーの LTV(Life Time Value, 顧客生涯価値)に大打撃をもたらします。ただ最近まで、デベロッパー、マーケター、CS 担当者などが、状況を把握できるデータにアクセスして何らかの対策をとることはありませんでした。

理由は様々ですが、エンジニアがこの問題を解決するための、スマホに特化したツールがなかったこと、マーケターとデベロッパーがそれぞれの領域にあまり関心を持たずにいたこと、そして多くの企業が依然としてウェブとアプリが似て非なるものという認識を持っていなかったことなどが理由でしょう。

 

アプリを安定稼働させることが良い利用体験を生み、より利用体験がエンゲージメントを高める

多くのアプリマーケターは技術的な問題に深く注意を向けていません。気にしているとしても、アプリの新バージョンのストアレビューが炎上しているなど、特殊な状況のみでしょう。しかしこうしたあからさまな問題がない限り、一般的なマーケターは技術的な問題にそこまで関心を示しません。なぜでしょうか?

まず1つ目の理由としては、つい最近まで、クラッシュなどのアプリの安定稼働性に関わる技術的な問題を、 LTV の低下等のビジネスリスクに結びつけるツールがなかったためと考えられます。他には、クラッシュデータを見る担当者が、不具合で困っているユーザーへの対応に追われるマーケターや CS の人間と、積極的に調査結果を共有することを習慣化していなかったことも原因でしょう。エンジニアチームが関連データの共有を積極的に行ったとしても、マーケターやカスタマーサービスはそれをどう利用するべきか、わからないこともありえます。

最後に考えられる理由は、アプリという媒体の独自性にあります。これはまさに、業界全体が直面している課題です。スマホアプリは、ウェブとは技術面でもマーケティングの観点からも異なります。ウェブの場合、マーケターは店頭販売データを見るようにシンプルに考えることができます。「POS (Point of Sale: 販売時点) があり、平均売上の数字もある。大半の顧客が売上につながれば、個々の購入状況をさほど気にする必要はない」と考えます。このようにウェブの場合はシンプルなターゲティング広告がうまく機能するので、ウェブ上で顧客を見つけ、ターゲティング広告でリピートを促せば良いのです。

一方、よりオーガニックな形でユーザーが戻ってくるスマホアプリの場合は、大きく異なります。ただ売上増加の流れが止まった場合、稀にクラッシュによることがありますが、マーケターはこれを知る術がないため、長期的な LTV のトレンドを正確に予測することができません。アプリのパフォーマンスを担当するチームとマーケティングチームの使命は異なるように見えますが、両者が協力すれば、ユーザー体験を確実に向上させることができ、その結果は数字として LTV に表れるはずです。


LTV を低下させるもの

LTV の定義をパフォーマンスベースのマーケティングの観点から詳しく見てみましょう。

LTV は簡単に言えば、特定の集団やセグメントが一定期間に生む収益を測る指標です。パフォーマンスベースのマーケターの任務の1つは、それぞれの集団の LTV を最大化することです。このためにマーケターが注力するべき点は2つです。

  1. LTV を向上させる。また、適切なユーザーを取り込んだり、アプリで人気の機能や採算性の高い部分に注力して、LTV を改善する。
  2. UX の改善やパーソナライズを通じ、継続的にユーザーにエンゲージする施策を実行する。

この2点は本当にシンプルです。

最適な UX だとは言えない状態を放置したり、ユーザーが好まない機能を追加したりすると、UX が悪くなり、ユーザーを早いタイミングで失うことになります。その結果、LTV が低下してしまうのです。こうして LTV が低下するとマーケティング予算も縮小していき、アプリの成長が難しくなるという悪循環が生まれます。

また時に、クラッシュなどのアプリの安定稼働性に関わる問題が、気づかないうちにLTVの低下を招いていることがあります。動作が遅い、突然落ちる、フリーズする、CPU メモリを食うといった技術的なパフォーマンスの問題は、その度にユーザーの LTV を1〜2%落とす可能性があると Embrace.io  のファウンダーであるEric Futoran 氏は指摘しています。それぞれの事象によるダメージは小さいですが、積み重なればLTV が大きな打撃を受けることになります。

 

アプリ安定稼働性監視の手段を得る

パフォーマンス改善に関わる人々も、考え方を少し変える必要があります。デベロッパーの場合、技術の問題とビジネスの結果を点と線をつなげるように考えていかなければなりません。新たなテクノロジーのおかげで、こういった考え方も可能になっています。マーケターは、個々のユーザーに合わせ、パーソナライズした対応が必要なことを認識しつつ、対応策を決める上で総合的な判断が必要と理解しましょう。

時としてデータサイエンス的な対応が必要な場合もあるかもしれません。ただ多くの場合は、個々のUXを検証できるようなツールにマーケターや CS 担当者が簡単にアクセスできるようにし、環境を整えることが大切です。つまり、仕事をする上で必要だと思われる人には、デバイス、ユーザー、セッションなどの分析データにアクセスし、それらを活用できるようにすべきです。

そのためには、都度エンジニアに依頼しなくても、クラッシュなどのアプリの安定性に関わる問題を可視化できるようにする必要があります。つまり、エンジニアがマーケターの手助けをできるようなソリューションが必要です。SDKにマーケティングデータを組み込むツールも、すでに数多く出回っています。

アプリの安定稼働を意識する環境を整える

スマホアプリ業界では既にこうしたデータの集積に着目し、目的に応じたアプリの技術的安定稼働性の可視化ツールが存在しています。

Datadog DevOps (開発運営)ツールの1つで、マーケター向けに技術面のパフォーマンスデータを可視化するものです。Embrace.io は技術的なパフォーマンスのビジネスへの影響を分析するためのツールです。Tableau は、技術的な安定稼働性データを可視化し、ユーザー体験と KPI の関係を組織全体で理解できるようにするものです。このほかにも数々のツールがあります。

また、上述のような新たなツールの登場や、マーケティング向けに技術的な安定稼働性のデータを可視化する方法が徐々に総合化されることで、組織内での技術サイドとビジネスサイドの意見交換は活発になっていくでしょう。

テクノロジーの発展と合わされば(MixPanel Amplitude など)、パフォーマンス測定がより総合的になり、アプリに携わる全ての人々が、一貫的で質の高いUXを提供することに注力できるはずです。これこそがLTV向上には最適な環境です。

Norikazu Hayashi|Country Manager, Japan